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福岡高等裁判所 昭和50年(行コ)7号 判決 1978年4月27日

控訴人

北九州市交通局長 徳永嘉雄

右訴訟代理人

苑田美数

山口定男

立川康彦

控訴人指定代理人

坂口智徳

外五名

被控訴人

小林博司

外八名

右被控訴人ら訴訟代理人

谷川宮太郎

吉田雄策

石井将

主文

原判決を取消す。

被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

<前略>

(控訴人の主張)

一、被控訴人らは、北九州市交通局労働組合(以下「北九交通労組」という。)の役員として、同労組の中央委員会に出席して本件争議行為を行うことを決定し、特に昭和四四年一一月八日の第六回中央委員会において具体的戦術などについて企画、協議、決定をなした。

そして、被控訴人らの構成する同労組執行委員会は、本件争議行為の前日である同年一一月一三日全組合員に対し、それぞれの所属する営業所の職場委員の指示に従い、本件争議行為の当日、二島、小石両営業所はいずれも午前四時、折尾営業所は午前四時一〇分に動員参加すること、ヤツケ、腕章を着用すること、執行委員か支部長の指示に従い一糸みだれぬ行動をすることなどの指示をした。また、被控訴人らは、本件争議行為中バスに乗務予定の組合員に対しては、勤務につきながら職務を怠ることを指示した。

さらに、被控訴人らの構成する右執行委員会は、争議行為当日の行動を指導するため、組合役員を各営業所に配置することを決定し、二島営業所に執行委員長である訴外中島定樹のほかに、執行委員である被控訴人永松、同野島、同中園、同上村を、折尾営業所に書記長である被控訴人小林、執行委員である被控訴人川原、同春原を、小石営業所に執行委員である被控訴人岩本、同植村を、それぞれ配置し、その各指導の下に違法な争議行為が行なわれた。

このようにして、被控訴人らは、三営業所全部について、あおり、そそのかしによつてバス出庫を完全に阻止したものである。

二、北九州市交通局と北九交通労組との給与改定に関する団体交渉は、そのための財源の確保、特に一般会計からの交通事業会計に対する繰入金のめどをつける必要から、従来一二月から翌年にかけて行われていたものであるところ、同労組は争議行為をなすべき緊急性もないのに、公務員共闘、都市交との関係から、全国統一行動の一環として本件争議行為に及んだものである。これに加えて、本件争議行為は、安保廃棄、沖縄無条件返還、佐藤訪米に対する抗議の目標を掲げ、当時の佐藤首相の訪米の直前に行なわれた政治ストである。かかる公務員の争議行為は容認される余地はない。

(証拠)<省略>

理由

一請求原因1、2の各事実及び抗弁1(一)の事実は当事者間に争いがなく、本件争議行為に至る経緯及び昭和四四年一一月一三日における各営業所の争議行為の状況についての当裁判所の認定判断は、原判決二一枚目表六行目から同二八枚目表一〇行目までの記載と同一であるので、これを引用する。

二被控訴人らの争議行為

<証拠>を総合すれば、

1  被控訴人らをもつて構成する北九交通労組執行委員会は、職場放棄の争議形態をとるとそのスト中にバスに乗務する当番に当つた一部組合員のみ処分され、組合の団結が弱められるとしてこれを避けるために、本件争議においては、争議中に乗務する予定の北九交通労組員には一応バス乗務の勤務につかせ、バスを運転して出庫するため姿勢をとらせるか、各営業所バス出入口で同労組の集会を開き、その出庫を阻止する形態をとることを企画し、この方法を同労組の第六回中央委員会に提案し、その承認をえ、被控訴人ら自ら、右乗務に当る同労組の組合員たるバス乗務員に対しそのことを指示し、あるいは職場集会等の機会を通じてその闘争方法についての理解、徹底を計つた。

2  また、被控訴人らをもつて構成する右執行委員会は、本件争議行為の前日である昭和四四年一一月二日、全組合員に対し、それぞれの所属する営業所の職場委員の指示に従い、翌一一月一三日、二島、小石両営業所はいずれも午前四時、折尾営業所は午前四時一〇分から動員に参加すること、執行委員もしくは支部長の指示に従い一糸みだれぬ行動をすること、ヤツケ、腕章を着用すること等を指示した。

3  さらに、右執行委員会において、争議行為当日の行動を指導するため組合役員を各営業所に配置することを決定し、二島営業所に中島委員長のほか執行委員である被控訴人永松、同野島、同中園、同上村を、折尾営業所に書記長である被控訴人小林、執行委員である同川原、同春原を、小石営業所に執行委員である被控訴人岩村、同植村を、各配置し、被控訴人らはそれぞれ役割を分担して本件争議行為当日次のとおり組合員の争議行為を指導した。

4  二島営業所においては、被控訴人野島は午前四時頃バス出入口でたき火を準備し、労組の旗を立て、中島委員長は一番バスの出庫時間の午前四時三〇分前に市職労ニュースカーを右出入口を閉鎖する形で駐車させ、組合員らにその位置に集るようよびかけ、もつて右出入口を閉鎖し、被控訴人永松は右出入口で集つた組合員らの音頭をとつて労働歌を斉唱させ、集会を司会し開会宣言を行つた。その後、中島委員長のあいさつ等の間、被控訴人野島、同中園は阻止されたバスの前面に立ち、被控訴人上村は集会のためマイクのアンプ操作をし、かくして右被控訴人らは午前六時まで当局側の退去要請を無視して定期バスの出庫を阻止し、争議行為を指導した。

5  折尾営業所においては、午前四時前から三か所の出入口のうち二か所を各々自動車二台ずつ停車させて閉鎖し、被控訴人小林、同川原は栗本運輸課長が右自動車の排除を求めたのに対してこれを拒否し、午前四時二五、六分頃、それまで営業所構内を巡回していた被控訴人春原は一か所だけ閉ざされていなかつた東側出入口に集つていた組合員らを座り込夏せて同出入口を完全に閉鎖し、他の場所にいた組合員らに対しては被控訴人川原が組合旗を持つて東側出入口に誘導し、被控訴人春原が音頭をとつて座り込んだ組合員に労働歌を歌わせ、引続き集会を開き、被控訴人小林があいさつをし、最後に被控訴人春原、同川原の音頭でシユブレヒコールを行つて午前六時に集会を終つたが、その間、被控訴人らは当局側の退去要請を無視して定期バスの出庫を阻止した。なお、右営業所における組合側責任者は被控訴人小林であつた。

6  小石営業所においては、午前四時前には被控訴人岩本、同植村が来ており、その後、同四時五五分頃、同植村が集つて来た組合員らにバス出入口に集合するよう指示し、集つた組合員らを並ばせてその出入口を閉鎖し、同岩本らが経過報告等をし、労働歌を歌つて気勢をあげ、出庫時間になつてその場に来たバスの出庫を妨害し、同岩本は石田管理課長に対し、出かかつたバスの後退を求め、午前五時前から被控訴人植村の司会で集会を始め、午前六時に集会を解散させるまで当局側管理者の妨害をやめるよう求める指示に従わず、これを無視して定期バスの出庫を阻止した。なお、右営業所における組合員側責任者は被控訴人岩本であつた。

以上の事実が認められる。

もつとも、被控訴人らは、前記三営業所におけるストライキは、外形上バスの出庫阻止の形態をとつたが、スト時間中に乗務する組合員らは、バスに乗務し出庫する姿勢はとるものの内心は他の組合員らの阻止行動の有無にかかわらず、バスを出庫せる意思はなかつた旨主張し、<証拠>中には右主張に添う部分があるが、右部分はにわかに措信できず、かえつて、引用にかかる原判決二五枚目裏一一行目から同二八枚目表一〇行目までに認定の事実及び前記認定の事実(ことに本件のような形態の争議行為をしたのは、争議行為中にバスに乗務する当番に当つた一部組合員のみ処分されることを避けるためであつたこと)に、<証拠>を総合すれば、本件争議中にバスに乗務する当番に当つた北九交通労組の組合員は、あらかじめ一応表向きはバスに乗務し出庫する姿勢をとるよう被控訴人らから指示をうけてはいたが、当日出勤時間を記録して運行管理代務者に提示して出勤を告げ、始業点検、出庫準備をし、右代務者に出庫の報告をし点呼をすませてバスに乗務しているのであつて、バス出入口において組合員らの集会の形式をとつたバスの出庫阻止の行動がない場合にも、なお当局管理者の指示命令を無視して出庫しない意思であつたことは容易に考えられず、バスの出庫は、本件争議行為によつて、威力をもつて決定的に阻止されたものと認められる。

なお、<証拠>によれば、本件争議行為当日、二島営業所において出庫を阻止されたバスの中には本件争議に加わつていない北九州交通局新労働組合に属する職員岩松、同赤尾の乗務するもの二台があつたものと認められ、右二名については、本件争議行為の有無にかわらず、当初から出庫の意思があつたものと推認され、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

したがつて、右被控訴人らの主張は失当である。

三業務阻害の状況

<証拠>を総合すると、

(一)本件争議行為はいずれの営業所においても早朝始発時から午前六時までの間の二時間以内の範囲で実施され、このためバスの運行が通常の状態に復したのは午前六時二〇分ないし三〇分頃であり、右争議行為によつて運休となつたバスは二島営業所で九本、折尾営業所で六本、小石営業所で七本、合計二二本であつて、これは運休となつた系統路線の一日ダイヤ総本数五五〇本の約四パーセントに該当し、当時運休したバスに平常乗務していた利用客数は合計三〇〇人弱であつたこと、(二)本件争議行為にかかる路線は、大部分北九州市若松区内にあつて、他に競合するバス路線の存在しない地域が多く、北九州市交通局の定期バスは、同区のバス路線の大部分を独占し、北九州市民にとつて重要な交通機関であつたこと、(三)また、本件争議行為にかかる早期バスの利用者は通勤が大部分であつたこと、(四)しかしながら、昭和四四年一一月一三日の早朝始発時より午前六時まで争議行為が行われることは新聞、テレビ等で報道され、さらに当局側は同月一二日争議行為で運休の予定されるバス停留所毎に、北九交通労組による争議行為が予定されている旨の書面を提示し、北九交通労組も同旨のことを主たる内容とするビラを各停留所で配布し、あるいはニユースカーで一般市民に対し争議行為の内容・趣旨を説明してまわるなどしてバス利用者に対する周知を計つていること、(五)また、いずれの営業所においてもラツシユ時に入る前に争議行為が終了したこと、(六)なお、同争議行為によつて運休となつた二二本のダイヤのうち一一本が翌四五年四月一日から廃止されているが、これは、この早朝バスの主たる利用者の勤める企業の勤務形態が変更されたので、それにあわせたものであること

以上の事実が認められ、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

四本件懲戒処分の適法性

1 以上判判示の事実(引用にかかる原判決理由説示の事実を含む)によれば、被控訴人らは、北九交通労組の役員であるところ、昭和四四年一一月一三日早朝始発時から午前六時ころまでの間、北九州市交通局の各営業所バス出入口において、北九交通労組の集会を開いてその出入口を閉鎖し、威力をもつて定期バスの出庫を阻止し、同局の正常な運営を阻害する行為を企画、指導して、あおり、そそのかしたものであつて、右地方公営企業労働関係法(以下「地公労法」という。)一一条一項後段、地方公務員法三三条に違反し、同法二九条一、三号に該当するものというべきである。

2  被控訴人らは、地公労法一一条一項は、地方公営企業職員の争議権を全面的かつ一律に剥奪しており、これは労働基本権を保障した憲法二八条に違反して無効であるから、本件懲戒処分も無効である旨主張する。

しかしながら、前記認定事実から明らかなとおり、本件争議行為は労働力の集団的停止の範囲を超え積極的に威力をもつて使用者の業務遂行を妨害して不当なものであり、これを企画、指導した被控訴人らの行為も、又、不当なものであつて、かかる正当な限界を超える行為は私企業においてさえも許されないものであり、憲法二八条の保障の範囲を逸脱するものである。そして、地公労法一一条一項の規定は、このような憲法二八条の保障のない争議行為及びそのあおり、そそのかし等を禁止する範囲では(他の状況を異にする事案に適用されると違憲となるかどうかはさておき)、同条に違反しないことはいうまでもない。

もつとも、被控訴人らは、地公労法一一条一項は、右のような本来憲法二八条の保障の範囲内にない争議行為及びそのあおり、そそのかし等の他に同盟罷業、怠業等で単純な不作為(単なる債務不履行)に関するものをも含めて全面的一律に禁止しているので右規定が全体として憲法二八条に違反している旨主張しているものと解されるが、憲法の解釈は、憲法によつて司法裁判所に与えられた重大な権限であり、その行使はきわめて慎重であるべく、事案の処理上必要やむをえない場合に、しかも、必要な範囲にかぎつてその判断を示すという建前を堅持しなければならないことは、改めていうまでもないところであり、本件事案の処理としては、地公労法一一条一項が右のような単純不作為の争議行為及びそのあおり、そそのかし等に適用される場合に憲法二八条に違反するかどうかの点まで含めて判断をする必要はないと考える。

3  つぎに、被控訴人らは、仮に地公労法一一条一項が違憲ではないとしても、同条項は、最高裁判所が昭和四一年一〇月二六日(東京中郵事件)及び同四四年四月二日(都教組事件)の各大法廷判決で判示したように、すべての争議行為を禁止しているものではなく、被控訴人ら主張の三要件を具備した争議行為のみ禁止しているものと解すべきである旨主張するが、右各判決において解釈上限定を加えるべきであるとされているのは、憲法の保障する正当な限界を超えない単純不作為の争議行為等についてであつて、労働基本権としての保障の範囲外である、正当性の限界を超える争議行為まで右のような事件の具備ないし制約を必要としているものと解すべきではない。そして、地公労法一一条一項が本件とは状況を異にする右のような単純不作為等に適用される場合の合憲性ないし限定解釈の必要性についてまで判断すべきでないことは、前記2で述べたところから明らかである。したがつて、所論は採用できない。

4  被控訴人らは、団体行動としての争議行為は常に集団的関係において把握されるべきであつて、争議行為に際してなされた組合員個人の行為を個別労働契約法的評価にさらし、懲戒処分を行うことは不合理である旨主張する。

しかしながら、集団的な労働関係は個別的な労働関係から切り離して成立しえないのであつて、個別的な労働関係における労働者の利益を保護し、そこで労使の実質的平等を実現するところに集団的労働関係の概念の認められる根拠があるのであるから、このような両者の密接な関係に着目すれば、集団的関係における労働者の行為に違法があるときは、これを個別労働契約法的に評価し、懲戒処分の事由とすることは、何ら不合理なことではない。

5  また、被控訴人らは組合幹部役員として、内部決定に従い、組合の団体行動としての争議行為が成立ち、遂行されるために不可決な一地位においてそれに必要な行動をしたにすぎないのに、これに特別な個人責任を課すことは組合の自主的意思を侵害し、統一的行動を破壊することになるので極めて不当である旨主張するが、前示のとおり、本件争議行為は威力をもつて業務の遂行を妨害する違法不当なものであつて、このような違法な争議行為をすることを組合内部において決定したとしても、法的拘束力をもつことはなく、被控訴人らはこれに組合役員として従う義務はないものであり(組合の統制に対する違反ないし裏切りの問題も生じない。)、被控訴人らがかかる争議行為をあおり、そそのかしたことを理由に懲戒処分をされたとしても、組合の自主的意思を侵害し、正当な統一行動を破壊することにはならない。

さらに、被控訴人らは、組合の書記長あるいは執行委員であるといつても、これらはいずれも単に組合内部の業務の分掌にすぎず、対外的関係において組合の活動につき責任を云云されるべきいわれはない旨主張するが、本件は右に述べたとおり北九州市交通局の業務を威力をもつて妨害した違法な争議行為であり、これを企画、指導した被告人らが、組合内部の業務執行を分掌したにすぎないとして責任を免れる埋はないから、右主張は採用できない。

6  よつて、本件懲戒処分は適法というべきである。

五裁量権の濫用について

被控訴人らは、本件懲戒処分は使用者に与えられた合理的裁量権を逸脱したものとして権利の濫用となり、違法である旨主張するので検討する。

裁判所が公務員に対する懲戒処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである(最高裁第三小法廷昭和五二年一二月二〇日判決)。

そこで、右の見地に立つて、前記認定の事実(引用にかかる原判決認定の事実を含む)に基づき、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものと認められるかどうかについて検討する。

被控訴人小林は北九交通労組の書記長であり、その余の被控訴人らはいずれも同労組の執行委員であるところ、被控訴人らは北九州市交通局の定期バスの出庫を威力をもつて阻止する争議行為を企画、指導したものであり、その争議形態は、私企業における労働争議としてでさえも許されない違法不当なものであること、その結果、いずれの営業所においても早期の始発時から午前六時頃までの間バスの出庫が阻止され、合計二二本のバスが運休となり、通常このバスを利用する三〇〇人弱の利用者(主とてし通勤者)の利用が阻害されたこと、本件争議行為にかかる路線は他に競合するバス路線の存在しない地域が多く、控訴人運行の定期バスは北九州市民にとつて重要な交通機関であり、乗客の多少にかかわらず公示された時刻表に従い定時に運行されるべき性質のものであること、<証拠>によれば、被控訴人小林は、本件処分前の昭和四二年八月二日付で停職三月、同年一二月一日付で減給日額二分の一、同四三年一一月二日停職一月、同四四年五月六日付で停職一月の各懲戒処分に処せられていること、その他前記認定の諸般の事実関係に照らせば、停職中には給与が支給されず、昇給延伸等の事実上の不利益を伴うことが<証拠>を総合して認められることを考慮しても、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、他にこれを認めるに足る事情は見当らないから、本件処分が懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えこれを濫用したものということはできない。

被控訴人らは、北九交通労組の役員という立場から、その職責として本部決定の確認、徹底、意思統一、指令伝達を図つたものであり、その態様も執行委員会での任務配置に従い、スト当日に各営業所で指令、伝達、本部情勢の報告等を行つたにすぎず、それ以上にストに関する主要な決定に参画した事実はなく、通常の争議行為に随伴する行為形態から逸脱し、意図的な行動に走つた事実は全くない旨主張する。

なるほど、引用にかかる原判決理由記載第一の1の(二)のへによれば、昭和四四年一一月一三日にストを実施することについては、組合員多数の賛成を得、中央委員会で具体的な闘争の形態等について確認し、臨時大会において実施を決定していることが認められる。しかしながら、本件争議行為は前示のとおり、私企業における労働争議としても許されないような不当な圧力を伴う違法なものであるから、被控訴人らは組合役員であつてもかかる違法不当な行為の確認、徹底、意思統一、指令伝達等をなすべき職責はないのみならず、前示のとおり被控訴人らをもつて構成される執行委員会が本件の違法不当な争議形態をとることを中央央委員会に提案していることが認められ、したがつて、被控訴人らは右違法不当な争議形態をとることを積極的に企画し指導したものと評価しうるのであつて、かかる違法な争議行為に対する原動力を与えた者として単なる争議参加者にくらべて社会的責任は重いものというべきである。したがつて、かかる反社会的な行為を争議行為に通常随伴するものとして行為の違法性が弱いとか社会的許容性があるとすることはできない。

さらに、被控訴人らは、北九州市交通局よりはるかに公営交通として規模も大きく、又、ストライキの規模も大きかつた他市交通労組の昭和四四年一月一三日のストに対する処分がはるかに軽微な内容にとどまることとの比較において、本件処分は裁量権の合理的な範囲を著しく逸脱している旨主張し、<証拠>によれば、同日のストに対する他の公営交通における処分は、単純に比較すれば、本件処分より軽かつたことが認められるが、他の公営交通におけるストの具体的状況等、ことに本件争議行為と同様の形態の違法不当なものであつたか否かは本件全記録を検討しても明らかでなく、したがつて、他の公営交通における処分状況と比較して本件処分の実質的な軽重を明らかにすることができない。したがつて、被控訴人らの右主張も失当である。

六被控訴人らは、本件懲戒処分は、かねてより北九交通労組の存在と活動を嫌悪していた控訴人によつて、同労組の組織を壊し、弱体化することを目的としてなされたものであり、不当労働行為として無効である旨主張するが、被控訴人らについてそれぞれの懲戒処分に見あうだけの処分事由が存在していることは、これまでみてきたとおりであり、本件懲戒処分はこのような処分事由を基礎としてなされたものであることが明らかであつて、被控訴人ら主張の事実を認めるに足る証拠はない。

七以上の次第であるので、被控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないので棄却すべきである。<後略>

(矢頭直哉 土屋重雄 日浦人司)

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